ついのこととて… 〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。

  


雪や寒さには耐性があるよな北国の方々でも
こんな級のは初めてだと肩をすくめてしまわれるような
所謂 記録的な豪雪や極寒が襲ったかと思えば、
それっていつの話?と言わんばかり、
何と三月並みだという気温や好天に見舞われ、
用心のためにと着てきたダウンのロングコートが大荷物になっちゃったり。
相変わらずに 翻弄されまくりの厳冬期が絶賛居座り中の睦月もやっと終盤。
聖バレンタインデーと恵方巻のニュースが、
丁度 年末のクリスマスとおせちのニュースのように混在して取り上げられている、
賑やかといや賑やかな頃合いで。
時折吹きすぎる冷たい風にひゃあと身をすくめるものの、今日は幾分かいい日和。
手入れの行き届いた髪、掻き回されたのを細い指先で直しつつ、
愛嬌のある目許を弧に緩めたのはひなげしさんで。

「外部受験のお姉さま方は、
 それどころじゃあなく大変な時期のようですが。」

受験生には入試本番の真っ只中ではありますが、
過剰な“頑張れ”は 人によってはむしろプレッシャーにもなりかねないので
あからさまに話題にしない方が却って親切かも知れぬ。
そういう空気とは縁がないだろ“お嬢様学校”としても名を馳せている某女学園は、
だがだが、近年 少しずつながら外部受験組が増えているそうで。
しかも、なかなかの合格率をひそかに叩き出してもおいで。
そもそも受験する生徒数が少ないからだ、
分母が小さいから率にすると大きな値になってるだけだと、
誰得?な悪態に聞こえなくもないこきおろしをするクチもいないではないが、
それこそこちらには誰か何処かと競争する気なんてさらさらないまま、
当事者である顔ぶれほど、そんな現状であることなんて知らなかったりするのがまた、
余裕というか、おっとり伸び伸びとした環境の功というか…。

「受験かぁ…。」

進級とか年度替わりの話題は出来れば避けてるこのお話ではありますが、(笑)
時期が時期なのでしょうがない。
一応は進学希望の三華のお三方、
電脳小町のひなげしさんが工学部のある大学志望なのは判るとして、
見かけによらず(おいおい) 最も深窓のお嬢様している紅ばらさんが、
実は付属の女子大にはない経済学部志望で外部受験コースを選択なさっていて、

「何なら法学を学ぶというのはいかがです?」
「〜〜〜。(う〜〜)」

法学部四年制を卒業後に こっそり警察大学とか考えている白百合さんから、
何なら一緒に其方へ進むというのもありですよなんて囁かれ、
ちょっぴりぐらついてなくもないらしい今日この頃でもあるらしいのだが。(おいおい)
今も、ようよう見やれば口許がかすかに真横へ引っ張られ、
難しそうな顔になり、半ば本気でむ〜んと唸っているらしい久蔵殿の可愛げへ、
七郎次も平八も うくくと楽しそうに笑ってから、

「…というか、
 やっぱり進学の話とかには当分縁がないんでしょうね、私たち。」
「でしょうねぇ。」
「……。(頷)」

場外の書き手へのスマッシュパンチを送ってきたりして。
…そういうフェイントはなしだぞ、お嬢さんたち。
ともあれ、自身の進学の話にはまだ間があるし、
おそらくは来年の今頃も似たような話をしている自分たちだろうと結論付けて。(おいおい)
すぐそこの二月の頭にまずは実力テストがあり、
そのまま女学園への外部入試があって休みになることとか。
その辺りに聖バレンタインデーへの手作りお菓子教室開きましょうねなんて、
お年頃の女子高生らしい時事ネタで盛り上がりかかった彼女らが、
学園指定の濃色のコート姿で仲良く歩んでいるのは学園周縁の通学路。
三学期でも運動部なぞは春休みのうちに新人戦があったりし、そうそう暇ではないらしいが、
基本は受験がらみで短縮も多く、
そこへ加えて彼女らが属す部活は自主活動をうたっての休みが多い。
卒業式がいよいよ近づけば、予餞会への準備とか慌ただしくもなろうけど、
そこはまだ一月だもの、まだまだ先の話という感慨が強い。
先週スキー合宿があったくらいで、
今日だって授業こそ半分だったが、主には三年からの受験の結果や相談の時間を設けるため。
よって、これと言って予定はない在校生には微妙に間延びした時期でしかないというもの。
少しばかり教室でもお喋りしていたせいか、
同じような境遇の同学年の姿も見えない街路は閑散と静かで、
アスファルトが乾いた陽にさらされた中、やや冷たい風が時折吹き抜けるだけ。
どこか遠い通りを駆けているらしい、
原付バイクのエンジンの音が聞こえたのにかぶさって、

「姉様、」

後背からか細い声でのそんなお声掛けが、パタパタという軽やかな駆け足とともに聞こえて。
どちら様も一人っ子だが、学園内では二年で後輩を持つ身。
よって、下級生からそうと呼ばれることもあるため、
誰を呼んだんだろかと、とりあえず三人がそれぞれ肩越しに振り返れば、

「双葉。」

背中までかかろうほどに伸ばした黒髪は、
ゆるい癖も艶やかに、しっとりとしているが故の重みもあるつややかさ。
童顔だのにちょっぴり甘い魅惑も含んで見えるのは、
人見知りから来る臆病そうな物怖じが、
人によっては庇護欲を、あるいはイケナイ嗜虐心を掻き立てるから。
そんなコケティッシュなお顔立ちをしたところが愛らしい、
今現在はバレー部所属の下級生で。
でもでも久蔵殿とは中等部からのお友達、
もう一人いる妹分と一緒にそれは可愛がっておいでの愛しい存在。
ちょっとした騒動がらみで七郎次や平八とも顔馴染みとなっており、

「どしました? そんなに息せき切って。」

3人ともが体ごと振り返って顔を見合わせ、七郎次がいたわるように声を掛ける。
学園からのここまでを一生懸命駆けって来たらしく、
バレー部所属と言ってもいきなりの無理をしたのがきつかったものか、
小さな肩を上下させ、頬を真っ赤にしてゼイゼイと肩で息をしているところが痛々しい。
人気者ではあるが、あんまり交際の輪を広げない久蔵には、
数少ない、だからこその寵愛の妹御でもあり。
その懸命さには動じたか、
どうしたのだとわざわざそばに寄り、案じるようにお顔を覗き込むまですれば、

「あのっ、一子さまを見かけませんでしたか?」

訊きながら自分の手元から 小さめの布の手提げを持ち上げて見せる。
おそらくは帆布製だろう、生成りの小ぶりなトートバッグで、

「私のと間違えて持って帰られたらしいのです。
 お揃いだったし、並べて置いていたので取り間違えたようなのですが。」

一子というのがもう一人の妹御。
幼稚舎では同期生だったが、病弱だったための休学を挟んで今は下級生になっており、
やはり大人しめな性分の物静かなお嬢さん。
こちらの双葉嬢とはクラスが同じこともあり大層仲良しで、
問題のバッグには二人ともお裁縫箱を入れていて、
それと一緒に明日提出の家庭科の課題が入っているところまでがお揃いだとか。
なにからなにまでお揃いだったので取り間違えたらしく、

「あらそれじゃあ、
 明日の提出とやらへ仕上げが間に合わないかもしれませんね。」

平八が気付いた そこのところを恐れたからこそ、
先に帰ったらしいお友達を追って、一生懸命駆けて来た彼女だったのは明白。
勿論のこと、
装いによってワイルドにも清冽にも見える金色のくせっけを白皙の美貌に乗っけた
頼もしき寡黙なお姉さまへも、そこのところは速やかに通じたらしく。

「…。」
「はい預かります。」

自分の鞄を傍らから伸ばされた七郎次の手へ預けると、
双葉嬢の手から件のトートバッグを手際よく取り上げ、

「え?」

一体何が始まるのかと 独り事情が判らない彼女が潤みの強い双眸を見張っているのへ、

「……。(頷)」

軽く一瞥を寄越したそのまま、あっという間に駆けだす背中の凛々しさよ。
人通りのない時間帯だったので特に見咎められるということはなさそうだったし、

「相変わらず綺麗な走りようですよね。」
「本当に。」

しゃにむにあたふたとか、がむしゃらにという雰囲気が微塵も滲んでませんものね。
下り坂だのに低い姿勢の整ったフォームで軽やかに、苦もなく駆けてくからですかね…と、
双葉嬢とともに居残った格好になった七郎次と平八が、暢気にもそんな見解を口にする。
確かに、セーラー服プラス コート姿、加えて革靴だというに、
久蔵お姉さまの走りようは まるで映画のワンシーンのようにそれは絵になるなめらかな疾走であり、
風を受けて多少は合わせが開いているコートの裳裾も、
いっそ恰好のいい 洗練された着崩しのようにさえ見えるから、美しいとは何たる武器か。

「あの…。」
「勿論、私たちも追いますよ。」
「間に合うとよろしいですね。」

つまりは…何がどうという事情を互いに均して精査する間も、
では私が引き受けましょうという意図の説明も惜しいとし、
そりゃあてきぱきと手荷物を処し、一気に駆け出した久蔵であり、
それを何という打ち合わせもなく手伝った、あとのお二人だったらしく。
こちらはやや速足という急ぎようで、韋駄天さんの後を追う。
たかたかと駆けて少し進んだ角を曲がれば、
平八の自宅でもある“八百萬屋”がその店構えを接している結構長い通りに出て、
その通りの終点どんつきが、
駅前の幹線道路と接している、生活道路の終点でもあるのだが、

「あ。」
「いた…ようですが。」

ここも人通りのないままの見通しの良い眺めの先、
しっかり駆けつけていた久蔵が身をかがめているのが見える。
転びでもしたものか、路上にしゃがみ込む同じコート姿の誰かへ駆け寄っている様子であり、
しかもそんな彼女らの不審な様相にかぶさって、
それまでは単なる環境音、その先に交通量のやや多い道路があるのだ聞こえもするだろという扱いだった
原付バイクらしいエンジンのイグゾーストノイズが轟いているのが、
こちらの…白百合さんとひなげしさんの眉根を吊り上げさせる。

「道の真ん中に座り込んでるのが妙ですよね。」
「バイクやスクーターが来れば、端に避けるものですものね。」

車道と歩道の区別なんてないほど狭い道だが、
なればこそ、遠慮して…というより危険だから、
自然なこととて道を空けるよにしてどちらかの端へ避けるものだろうに。
しかもしかも、向こうへと去っていったそのバイク、
わざとに耳障りな音が出るよう改造されてるらしいそのエンジン音が
遠ざかり切ることなくの、Uターンしてこっちへ戻ってくるらしい気配、
徐々に大きくなって聞こえるではないか。

「性分の悪い不良崩れが一子さんをからかいでもしたんでしょうかね。」
「荷物を引っ張って転ばせたってとこでしょうか。」

学園内の購買施設でもスマホやカードによるキャッシュレス化が進んでいるので
鞄を奪っても金目のものなんて持ってはないのに。
それとも可憐なお嬢様が怯えるの見たさの悪趣味な振る舞いか。
どっちにしたって許せんと思っておいでなのがありあり判るほどに、
こちらのお姉さま方の低められたお声には
重々しいまでの憤怒の気配が滲んでおられ。
ひなげしさんが学生鞄の裏ポケットから引き抜いたのは、
スマホよりは少し大きめのミニタブレット。
素早く起動させ何やら操作をしているのは、
該当車両の動き、現在からやや遡った時点から浚う格好でサーチしておいでなのだそうで。
それとは別に “はいな”と七郎次へ手渡したスマホには、
少し遠めの“現場”に最も近い位置の防犯カメラの映像だろう、
座り込んでいる一子さんとその傍らに屈みかけてる久蔵さんの姿が映し出されて。
つややかな黒髪をボブにした、
こちらもお人形のように可憐な容姿のお嬢様が、
ちょっと怯えておいでなのがはっきりと映し出されて痛々しい。

「行ってきます。」
「え?」
「気を付けて。」

自分のバッグもその場へ置いて、
七郎次が彼女らのところまでだろ、逡巡の気配もないまま駆け出しており。
そんな彼女の気配を察してか、
ちらりと久蔵がこっちを振り返ってからおもむろに立ち上がる。
そして、そこまでは介抱していた一子さんの向こう側へと歩を進め、
すっくと背筋を伸ばして楯のように立ちはだかるではないか。
右手だけぶんと振り抜いてその手へいつもの警棒を振り出したところへ
遅ればせながらで七郎次が駆けつけて、
立てますか?と一子に手を貸し、出来るだけ道の端へ避けるようにと誘導。
お嬢さんたちがそんなこんなして、ある意味 “待ち受けて”いるところへ、
ほんの先刻そこを駆け去ったのだろう、大通りとの接点になるT字路へ姿を現した小型のバイク。

「来ましたよ、」
「……。(頷)」

言われずともと深々と頷首した、仁王立ちの紅胡蝶さん。
こちらもまた、何が始まるものかと
訳が判らぬままらしい一子さんを庇うようにその懐へと掻い込んで、
七郎次が厳しい表情で見守る中、
お調子に乗って引き返してきた原付バイクの不良崩れ。
さっき引きずったお嬢さんとは全く風貌の異なる存在が
しかも、ぎりりと眇めた眼差しも鋭く、
こちらを睨んだまま真っ向から迎え撃たんと立っているのが、
そこはさすがに異様だと思わんでもなかったが、

「おら避けねぇかっ!」

ぶつかってもそっちが悪いと言わんばかり、
いやいやすんでで避けるとでも思うてか
やはり調子に乗って速度を落とさぬ性悪さよ。
勿論、そこはある意味こちらもお相子。
ただし、いくら何でも避けるだろう…なんてお気楽なことは思ってない。
むしろ、

「……。」

右手へ提げた警棒の金属部分が
観ようによっては輪郭をぶれさせるほどに震えていて、
きぃぃんとかすかな唸りを上げている。
そんな得物の切っ先をその身の前へと掲げてのそれから、
軸足をぐんと踏みしめ、片やの足を引いたかと思ったその次の瞬間には、

 ふいに突風が吹き抜けたかと思ったほどに

向かい側のブロック塀のうえ、少し覗いていた山つつじの梢がさわざわ揺れて、
それでなくとも正面衝突しかねぬほど同じ動線上にいた女子高生が、
一気呵成にこっちへ向かって来たのへと、

「わっ、危ねっ。」

そこはさすがにギョッとして、その目前でハンドルを切ったがもう遅く、
ガツンという大きな衝撃がそのハンドル部分を襲う。
事故った経験が前にもあるものか、
相手は華奢な女子だ、前のタイヤが強めに寄り切られるくらいだろ思ったらしかったが、
ただ人がどんとぶつかったどころじゃあない、
握っていた両手両腕、その芯にあたる骨までも
砕けろというほどの堅さ痛さで殴られたような。
そうまで大きく重い衝撃に耐えかね、
何が起きたかを見る余裕もないまま、
ぎゃあぁと無様な大声を上げてハンドルを放棄し、
横倒しになったバイクとお揃い、ゴロゴロと路上へ転がった不良の輩。
制御を失ったバイクがグルングルンと凶暴に回転し、
そのまま凶器になりかけたが、

「危ないですねぇ。」

まったくもうと叱咤するよな声を出しこそすれ、
落ち着いて懐へと抱いた一子嬢を庇う姿勢もゆるぎなく、
除けもしなかった七郎次の傍らで、
やはり久蔵の得物であるもう一本の警棒をタイヤのスポークにねじ込まれ、
街灯の付いた電柱へ鼻づらを無理から押し付けられて止まったバイクであり。
それらの攻勢を一気に畳みかけたらしい紅胡蝶さんはどこへ行ったかと言えば、

「っ、ひぃいぃい〜〜っ。」

路上へと転がった輩の鼻先のアスファルトへ、
だんっと勢いよく革靴での一歩を踏み下ろして、暴走少年へとどめを刺しておいで。
原付バイクへ恐れもなく真っ向から向かって行ったヒサコ様、
最後の一歩を踏み切ってから、
思い切り振り下ろす格好で、警棒による衝撃をハンドルへ食らわせて。
そこを支点という手掛かりに
前方一回転という格好でバイクと輩を鮮やかに飛び越し、
見事にやり過ごしていたから物凄い。
しかも、警棒には例の“超振動”をまとわせていたものだから、

「あ…。」
「あらまあ。」

電柱にぶつかったバイクはそのままバラバラバラッと
金属部分が微に入り細に入り細かく分解してゆき、
ほぼパーツごとという原型の山になってうずくまったから、
暴走少年にはこれはもう悪夢というしかなかったようで。

「ひぃいぃぃいい〜〜〜。」

風にそよぐ金の髪に、すべらかな白い頬。
繊細な造作の鼻梁の下には
淡い緋色の口許が品よく閉じて知性的。
手足もすんなりと長くてスタイルの良い、
出来のいい美術品のようにそれは端正な風貌のお嬢様との
滅多になかろう奇跡の遭遇だというに。
つり上がった双眸がたたえる滾るような怒りと、
その発露によりずったずたにされた愛機の無残な様子こそが
彼には強く印象付けられたに違いなく。


「久蔵殿、何か切れが増しましたね。」
「あのお爺さんとの手合わせの効果かな?」
「〜〜〜

それだと面白くはないものか、判りやすくも口許を曲げてしまわれる紅ばらさん。
そんなところへ“八百萬屋”から五郎兵衛さんがしょっぱそうなお顔で出て来ての、
このお嬢さんたちはまったくもうと、
もはやセオリーになっているお説教への取っ掛かり、
某外科医のせんせえと警部補殿へのメールをスマホで送っておいでだったりし。
毎度おなじみの活劇騒動、一応、これにて幕でございます。






   〜Fine〜  17.01.28


 *双葉さん、初出『相変わらずで ごめんあそばせvv』13/05/18
  あ、しまった苗字は無かったんだっけね。
  一子さんも実は限定解除を乗り回せる恐ろしい女傑だったはずで、
  長いこと女子高生させとくと ろくなオマケがつきかねません。(笑)

  こないだっから 某“文豪〜”のMADの見過ぎで
  やたらと活劇が書きたくてしょうがないのですが、
  なかなかに筆が追い着かないのが口惜しいったら。
  長らく遠のいてたので勘が戻りません。

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

メルフォへのレスもこちらにvv


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